フランスの財布ブランドと一口に言っても、その実態はさまざまだ。200年近い歴史を持つ高級メゾンから、パリ発でも生産は海外の工房というブランド、そしてパリの小さな工房だけで完結する独立系メーカーまで、フランス製というラベルの中身は大きく異なる。「フランスのブランド」と「フランス製」は、実は同じ意味ではない。ここでは、フランスの財布ブランドを10選び、それぞれの立ち位置、価格帯、実際の製造国、代表的な一本を紹介する。パリ在住の革職人として、ブランドを選ぶ際に本当に見るべきポイントも合わせてまとめた。
フランスの財布ブランドの中でも別格の存在がエルメスだ。南西フランスのノントロンやモンブロン、アルデンヌ地方のボニー=シュル=ムーズなど、複数のアトリエでフランス国内生産を貫いている。財布の代表作は「ベアン(Béarn)」で、フランスの地方名にちなんで名付けられたシリーズのひとつ。価格帯は高く、新品でおよそ1800ユーロから。仕立ての多くを一人の職人が最初から最後まで担当する体制で知られ、フランス製の職人技をそのまま体現するブランドと言える。
知名度で言えば世界最大級のフランスブランド。財布の生産拠点はフランス、スペイン、イタリアなど複数国にまたがり、ラインによって異なる。代表作は「ジッピー・ウォレット(Zippy)」で、L字型の大型ジップが特徴。価格は数百ユーロ台からと、エルメスよりは手が届きやすいが、それでも高級ブランドの水準にある。
独自のゴヤールキャンバス地で知られるメゾン。派手なロゴを表に出さない控えめな佇まいが特徴で、財布はフランス国内で製造されている。価格は数百ユーロから、モデルによっては1000ユーロを超える。代表作は「サン・フローレンタン」や「マティニョン」シリーズ。
ここからは、いわゆる大手メゾンとは異なる立ち位置のブランドを紹介する。Suki Parisは、パリ17区rue Labieのアトリエだけで作られる独立系ブランド。フルグレイン(pleine fleur)の牛革(ヴァシェット)を植物タンニンでなめし、裁断から縫製、仕上げまでを同じ工房の職人が担当している。大量生産のラインを持たず、下請けにも出さない小規模生産が特徴。価格帯は大手メゾンよりずっと手頃で、独立系ブランドの中では中庸な水準。代表作はフランス製 本革の財布のひとつ「ナクソス(Naxos)」。大手メゾンほどの知名度はないが、フランス国内一貫生産を実際に確認できるブランドのひとつだ。
ナイロン製バッグ「ル・プリアージュ」で世界的に知られるブランド。財布の生産は、フランス西部(メーヌ=エ=ロワール県セグレなど)の複数の工房と、チュニジア、モーリシャス、ルーマニアなど海外の提携工場に分かれている。過去の報道では、バッグ生産の4割以上が海外拠点によるものとされたこともあり、すべてがフランス製というわけではない点は知っておきたい。価格帯は85〜190ユーロほどと、比較的手頃。
1898年創業のフランスの老舗メゾン。財布の一部はフランス西部(ペイ・ド・ラ・ロワール地方)で作られ、バスク地方のタンナリーから届く革を使うラインもある一方、チュニジアの工場も併用している。価格帯は比較的手頃で、フランスの百貨店などでも扱われている。
2010年創業、レトロなデザインが特徴のブランド。創業者が蚤の市で出会った古い革小物からヒントを得たとされ、生産はインド、カンボジア、イタリア、フランスなど複数国の工房に分散しており、フランス製とは言い切れない製品も多い。価格帯はフランスの財布ブランドの中では手頃な部類に入る。
南フランス、アヴェロン県サン=ジョルジュ=ド=リュゼンソンの工房のみで、裁断から縫製までを一貫して行うブランド。植物タンニンなめしの革を使い、地元のタンナリーとの結びつきを大切にしている。代表作の財布「グリズビ(Grisbi)」は95ユーロ前後と、フランス製としては手頃な価格帯にある。
1969年創業、タルン県グロールで100%フランス製を貫く工房。裁断、型押し、組み立て、へり仕上げ、縫製までを同じ職人が一貫して担当し、2016年には「生きた遺産企業(EPV)」の認定も受けている。財布は90〜110ユーロ程度で、代表作は「メティス(Métis)」。
2016年にパリで生まれたブランドだが、財布やバッグの製造はすべてスペイン・ウブリケの工房で行われている。デザインはパリ、生産はウブリケという分業体制で、パリ発イコールフランス製とは限らない好例と言える。価格帯は中〜やや高め。
財布選びで見るべきポイントは4つある。まず革の種類。表面の傷や個体差をそのまま残す「フルグレイン(pleine fleur)」の革は、表面を削って均一に仕上げたコーティング革より丈夫で、経年変化そのものを楽しめる。次になめし方法。植物タンニンなめしはクロムなめしより時間もコストもかかるが、使うほどに色味が深まる独特の風合いに育つ。3つ目は製造国。フランス製かどうかはブランド名だけでは判断できず、ここまで見てきたようにブランドごとに実態が異なる。パリ発というだけで工房まで確認せずに判断するのは早計だ。最後に保証と修理対応。長く使う財布ほど、ステッチのほつれや金具の劣化を修理してもらえるかどうかが重要になる。なお、日本からフランスのオンラインショップで購入する場合、商品価格に加えて関税や消費税が発生することがあるため、事前に配送業者や税関のルールを確認しておくと安心だ。
フランスで最も有名な財布ブランドは? エルメスとルイ・ヴィトンが、世界的な知名度という点では突出している。ただし、いずれも価格帯は高い。
手頃な価格のフランス製財布ブランドはある? ある。ブルー・ド・ショフやアトリエ・フーレス、Suki Parisなどは、フランス国内生産でありながら100ユーロ前後からとなっている。
フランスのブランドはすべてフランスで製造している? いいえ。ポレーヌやポール・マリウスのように、フランス発のブランドでも製造は海外(スペイン、インドなど)という例は少なくない。
フルグレインの革とは何か? 動物の皮の表面をそのまま使う、最も丈夫な等級の革のこと。傷や血管の跡といった個体差が残るが、使うほどに味わいが出る。表面を削って加工した床革や、樹脂でコーティングした革とは経年変化が大きく異なる。

創業者・革職人
Amandine Simon
Suki Paris 創業者。パリ17区のアトリエで、一点ずつ手作業で仕立てています。
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